2009年7月24日金曜日

おくりびと(滝田洋二郎監督)

かつて話題になっていたので、一度見たいと思っていた作品。「納棺士」という職業に就くことになった主人公やその周りの人間達の人間模様が描かれている作品です。死が絡むので重い映画なのだろうと予想していたのですが、「重い」というより「美しい」というほうが適切に感じる映画でした。

自分の周りの友達が遺体を扱う職業に就く、と言ったら反対する人は多いと思います。劇中でもそのような葛藤、衝突が描かれますが、ラストにはその美しさを皆が認めてくれて理解を深めていくのです。何を美しいというのかと言えば、「死した者に永遠の美を与えて納棺することで、生きた証を刻み込んでいく」ことでしょうか。そうすることで、生きている者、死した者それぞれにメッセージを伝えているのだろうな、というのが画面からひしひしと感じられます。

劇中での軽い会話を紹介すると、(うる覚えですが)
「生き物は生き物を食べて生きている。だが生きている限りは、食うなら旨いものが良い、楽しいほうが良い。死にたいなんて考えなければ辛い事なんてないんだ。」
「はい。・・・今食べているチキンは美味しいですか?」
「ああ。困ったことにな。」

死者は思いやるべきであるのだが、そのために自らをいじめることはない。生きている者は他者を殺してでも生きていこうとするものだし、そうすべきなのだ。それは自分勝手なのではなく、生きるとはそういうことだ。
と、言いたいのかなと思います。困ったことに、それが真実なのでしょう。死生観など今までの人生でほぼ考えたことのないことですが、強いメッセージが若干コメディーを交えて発せられるので、心に入りやすかったです。見てない方には是非見て欲しい内容です。

陽気なギャングが地球を回す(伊坂幸太郎)

都会派サスペンス、という分野の本らしいです。タイトルどおりギャング達が主人公であり、銀行強盗が舞台となってます。

初めはミステリー的なものを期待していたので、大したどんでん返しはない本書はそういう意味では期待はずれでした。この本の魅力は、銀行強盗という行動を温かく支える周りの人間達と、楽しくかつ美しく犯罪を犯す主人公達、という異様な光景をコメディカルに眺められる、という点でしょうか。引き込まれる本、というわけではないですが飽きずに読んでしまう本、という感じでした。

特に愉快なのは、自分達の行動は社会に良い事をしているという想いを持っている、いわゆる確信犯が主人公達だということです。彼らの理論では銀行強盗は善で、作中で敵として出てくる現金輸送車強奪犯は信じがたい悪だととらえています。一見すると馬鹿な話ですが、伊坂ワールドに居るとそうなのかな、という気にされてしまうのが妙なところです。そのあたりが読んでいて楽しかったです。

さて、作者の意図は何だろう??

・・・特に思想があったわけでもなく楽しい小説が書きたかったのかな、というのが感想です。犯罪者っていうのは、意外に愉快でしかも正義感や友情など人間味にあふれているのかもしれないな、と思ったのかもしれないですね。

2009年7月6日月曜日

ジョゼと虎と魚たち(犬童一心監督)



これは映画のほうで見させていただきました。恒夫(妻夫木君)とジョゼ(池脇千鶴)と香苗(上野樹里)の三人が主な登場人物。他にも魅力的な人物がいますが、何か長くなりそうなので割愛します。

一言で言えば、「切ないラブストーリー」といったところです。香苗と付き合っていた恒夫は、足が不自由な少女ジョゼに惹かれ乗り換えますが、結局は身体障害者という苦難から逃げ出して香苗とヨリを戻すという、これだけ聞けばひどい恋愛話。

ですが、訴えたかったのは人の「弱さ」なのではないかと感じました。その説明の前に登場人物の紹介をすると、
恒夫: 遊び人の大学生で香苗とはほぼSEX目的で交際を始める。変わった魅力を持つジョゼに惹かれて一時期恋をする。
ジョゼ: 強気な女の子で、勝気な男のような性格をしている。が、毎日花と猫を見たいがために散歩をするというギャップを持っている(恒夫の惹かれたところ)。
香苗: これまた遊び人の大学生で、男を手に入れようとSEXも全く辞さない。

恒夫もジョゼも、お互いいつかは別れることになると分かっていたのではないか、と自分は勝手に思っています。そんな中での恒夫の「弱さ」は、真剣に愛したジョゼとでさえも遊びの恋にしてしまったことではないでしょうか。真剣に向き合うのが怖くてそうしてしまうのだろうか。しかも、香苗とヨリを戻すラストでは泣き崩れてしまいます。中途半端な自分とジョゼを傷つけてしまったこととに涙が出たのだと思いますが、それを理解したうえでヨリを戻してしまうという、如実に弱さが出ていたシーンに見えます。
香苗の「弱さ」は、彼氏を取られた苛立ちで、車椅子のジョゼを叩いてしまったところです。その直後に彼女も後悔していて、人の行動は目先の欲望に左右されるのだな、、と切ない気持ちになってしまいました。
ジョゼは捨てられたあとも一人で強く生きていく姿がラストシーンで映され、強い女性のように描かれますが、実は一番弱い女性だったのかなと感じます。自分を最も見てくれた恒夫に「一生ここにいてくれ」と懇願したり、一時期の思い出を求めて虎や魚を見に行ったりとします。きっと彼女には身体障害者というコンプレックスがあり、(一時期でも)愛している(と思える)人と一緒に過ごしたという想い出だけでもないと心が崩れてしまったのだと思います。しかし、外に出歩けない彼女にはもう恋愛の機会はないのですが、果たしてこれで幸せだったのか。。幸せにはなれないと確信しつつ心の隙間を埋めようとし、さらに心の隙間を広げてしまっただけではないか。。

ハッピーエンドとはいえない終わり方で、何とも重い気分になります。「人って所詮こんなものなのだよ」という作者の声が、耳をふさいでいても頭に響いてくるような、そんな映画でした。

民主主義という不思議な仕組み(佐々木毅)



民主主義という「最も進化した政治体系」と一般に思われているものについての解説書です。作者はまたも東大の元総長ですが、若干難しかったかも。。というのも無理はなく、結局政治をどうするべきかについての答えがあるわけではなく、数値化もできなければ(歴史がある場合を除いて)具体化もほぼできないことだからです。

一般的な解釈としては、民主主義は「最も人々の理想とする社会を築いていける体制」と捉えられていますが、その是非を問う形となっている本です。結論からいえば、独裁国家でもなんでも上記の目標を達成するためのメリットやデメリットがあり、歴史的に見ると、民主主義が一応最もメリットのほうが大きいように見える、といった感じです。しかしそこには数多のデメリットも当然あって、それを最小化するための問題提起をしています。

最も印象に残った、というか前々から僕も考えていたことは、民主主義において「無能な大衆の台頭」が非常に危険というところです。大衆は圧倒的な指導者、目先の利益に弱い点を本書では指摘します。例えば、ヒットラーのように大衆を魅了する人物が現れたら皆そこに魅かれる事になります。現在は皆そういう事はないと主張しますが、例えばオバマ大統領は「政策の内容」よりも「演説での魅了度」で投票した人が(自覚か無自覚かにせよ)大勢なのではないでしょうか?また、日本でも世襲制度なんたらという意味不明の法案が審議されていましたが、あれも大衆は「親族の有名度やお金、アピール度」で政策の善し悪しを決めてしまうということから仕方なく出てきたものだと思われます。

上記のことを一例として、考えさせられることが多い本だと思います。これから世の中を作っていく側の人間になっていく大人として、考えるべき内容だとは思うので一読の価値ありです。
ただ、、国語の苦手な僕は半分くらいの文章を二度読みしています。国語のものすごい苦手な人はもう少し簡単な本から手をつけたほうが良いかも。。