巷で少し話題の本なので読んでみました。内容はかなり軽いので3時間ほどで読めました。
著者は26歳にして将棋界史上初の7冠を成し遂げた天才・羽生善治。将棋を指したことある人の中では間違いなく将棋界で最も有名な人です。
ただ本の骨格部分は正直あまり面白くないです。。経験からくる不安や恐れに捉われずに、直感や閃きで勝負したほうがよいとか、迷ったときに決断をする際の吹っ切り方などが書いてあるのですが、まあそれはそうだろう、という事しか書いてなかったのが残念でした。
たまに話が横道にそれて、例えば「人工頭脳と棋士との対戦」の話が出てきたりしますが、個人的には将棋が好きだったので面白いトピックでしたが、将棋を知らない人にはどうなんだろうという疑問も。。
個人的に一番面白いと感じたのは、作品からにじみ出てくる著者の性格を感じ取れたことです。将棋を昔やっていたことも影響していますが、歴史上アインシュタインの次くらいに天才なのではないかと思う人なので、どんな人なのかは興味がありました。
そこで本から感じたのは、羽生はかなり人生を楽しもうとする人間だということです。いずれ人工頭脳に棋士が負ける時をワクワクし、敗戦を学べる機会と捉え、指し方はとにかく新しい局面を求める。想像していた「勝負に徹する人間」とは何か違う匂いを感じられたことが新鮮でした。
将棋に興味があるか、決断力がよほどない人くらいにしかお勧めはできないかもしれません。
2009年12月10日木曜日
2009年10月9日金曜日
サブウェイ123 激突(トニー・スコット監督)
飛行機の中で見た映画です。内容紹介には、「天才的な頭脳を持つ地下鉄ジャックの犯行グループ対交通局の役人というスリリングな映画」とあったので、狡猾な手の出し合いで楽しめるのではないか、と思って見てみました。
さて、実際に見てみると、、お世辞にも高度な頭脳戦が展開されているとはいえない内容でした。。不思議に思ってネットの紹介も見てみたのですが、特に飛行機の紹介文とは変わらない内容でした。この先の感想は、僕がずれているだけかも知れませんがお許しください。。
見ていて思ったのが、犯人グループは「狡猾」というよりはただただ「強引」なのです。人質をとって市長に金を請求する、要はそれだけです。車内の少年によって犯行中の隠し撮りはされるわ、地下から逃げた後はすぐさま全員捕まって殺されるわ、特にスリリングな部分はなしでした。
・・・と文句ばっかり言いましたが、僕の解釈では映画の伝えたい内容は別にあったように思うのです。そもそも犯人は初めから失敗するのを分かっていて犯行を行ったように見えるし(しきりに「死ぬ覚悟はある」と言っている)、人質を殺すのをものすごく嫌がっていました(「はぁ、、仕方がない。。」と言っています)。 設定として犯人達は、「元は社会人だったのに、たった1つの些細な犯行で社会からのけものにされた人間達」です。だからこそ犯人達の目的は、社会(市や交通局)に対して、「お前達の作り上げた社会はこんなにも理不尽なんだ!」と訴えることのみだったのではないでしょうか。実際、1000万ドルを1時間で用意しろと言った後に事故などで配達が遅れても、「そんなのそっちの問題で俺に言うことではない、何とかしろ」と強引に押し通します。これらも、個人の事情は社会の決め事の中では無視されるんだ、ということを言いたかったのではないでしょうか。
スリルな映画と表面上はしておいて、「人間と社会」について語られている映画なのではないかなぁと思いました。今でも犯人の言動を思い出すと切なくなってきます。
2009年9月29日火曜日
白き旅立ち(渡辺 淳一)
元医者の渡辺淳一さんが書いた一冊です。この人は、医学の観点から命の重さなどの重いテーマを書き上げることで有名です。
「白き旅立ち」、という題名から「全うして生きた人の死」という印象を受けましたが、この本の内容は「死後の解剖」が中心となって語られます。解剖といっても医学実習生の教育用などに使われる解剖であり、臓器提供や病理解明とは一切関係ありません。医学の世界では自らが御世話になった分、自分も解剖の対象に、という人が多いみたいですが、正直自分は嫌です。あなたは提供する勇気がありますか?
そのような解剖を日本で初めて自ら志願した遊女・美幾の生き様を描いたのがこの本です。遊女として過ごした人生、「どんな目にあっても生きていられるだけで幸せなのだ」という悲しい想いを常に背負ってきた女性です。真に美幾のことを想ってくれる人間など存在せず、社会に出れば遊女だということで不当な扱いを受けます。そんな中で死の病に倒れてしまう美幾。
そして療養所で出会った若き医師に恋をしてしまいます。その医師が、解剖こそ日本医学の発展に不可欠だと説いているのを聞き、、、
美幾は体を提供する約束をし、自ら旅立つのです。
暗い物語ですが、渡辺さんは、「美幾の一生を書き終えて、(中略)暗いどころか、自ら腑分けで愛を訴えるとは、これほど華麗な死への旅立ちがあるだろうか。」と結びます。。
僕は彼女のことは立派だとは思います。自分の想いを貫き、医学への貢献もしましたから。でも、とても「華麗」だとは思えないのです。切ない人生と華麗な人生とは違うと思うのです。最後の死の瞬間に彼女は幸せを感じていますが、その対価としての辛い人生は、あまりに長く悲しみに包まれていました。
ご冥福をお祈りします。
2009年8月19日水曜日
恍惚の人 (有吉佐和子)
うちの親が有吉佐和子のことを好きらしくて、借りて読みました。この人は小説という形をした新書を書くことがたまにあるようで、「複合汚染」という題名の本では環境汚染の問題を扱った長編を綴っています。本書もそのような毛色の内容で、あとがきに「昭和40年ごろに、子供がするのが当たり前と思われていた介護の社会システム化(老人ホームやホームヘルパー)を推し進める世論を作った本」とあるように、老人介護問題を取り上げた内容となっています。
この本を読んだ人はまず人生自体が怖くなると思います。医療の発展によって長生きをするようになった老人が、題名の「恍惚の人」とあるように華やかなものではなく、他人へ多大な迷惑をかけ考えることも楽しいこともなく日々を重ねていく存在に描かれているからです。まだ救われるのは、そのかわりに老人自体は苦痛な日々は送っていないこと、その老人を必死で介護する嫁がいることです。
その老人の孫曰く、「お母さん達はこんなに長生きしないでね。」
嫁曰く、「この人の人生はいったいなんだったのだろう。」
息子曰く、「こうなる前に死にたい。」
登場人物の発言が重くのしかかります。また、文中では親を老人ホームに預ける子供は「裏切り者であり、親不孝者」として描かれていて、「家族の誰かが仕事や好きなことを犠牲にしてでも懸命に介護を続けるべき」だと言っています。読んでいる最中に老人ホームに預ければよいのに、と思っていたので、考えさせられる内容でした。ただ、自分の親がこうなるまでは本気で考えることもないのだろうな、とも思います。なぜなら、それを考えること自体が非常に怖いからです。。
2009年7月24日金曜日
おくりびと(滝田洋二郎監督)
かつて話題になっていたので、一度見たいと思っていた作品。「納棺士」という職業に就くことになった主人公やその周りの人間達の人間模様が描かれている作品です。死が絡むので重い映画なのだろうと予想していたのですが、「重い」というより「美しい」というほうが適切に感じる映画でした。
自分の周りの友達が遺体を扱う職業に就く、と言ったら反対する人は多いと思います。劇中でもそのような葛藤、衝突が描かれますが、ラストにはその美しさを皆が認めてくれて理解を深めていくのです。何を美しいというのかと言えば、「死した者に永遠の美を与えて納棺することで、生きた証を刻み込んでいく」ことでしょうか。そうすることで、生きている者、死した者それぞれにメッセージを伝えているのだろうな、というのが画面からひしひしと感じられます。
劇中での軽い会話を紹介すると、(うる覚えですが)
「生き物は生き物を食べて生きている。だが生きている限りは、食うなら旨いものが良い、楽しいほうが良い。死にたいなんて考えなければ辛い事なんてないんだ。」
「はい。・・・今食べているチキンは美味しいですか?」
「ああ。困ったことにな。」
死者は思いやるべきであるのだが、そのために自らをいじめることはない。生きている者は他者を殺してでも生きていこうとするものだし、そうすべきなのだ。それは自分勝手なのではなく、生きるとはそういうことだ。
と、言いたいのかなと思います。困ったことに、それが真実なのでしょう。死生観など今までの人生でほぼ考えたことのないことですが、強いメッセージが若干コメディーを交えて発せられるので、心に入りやすかったです。見てない方には是非見て欲しい内容です。
自分の周りの友達が遺体を扱う職業に就く、と言ったら反対する人は多いと思います。劇中でもそのような葛藤、衝突が描かれますが、ラストにはその美しさを皆が認めてくれて理解を深めていくのです。何を美しいというのかと言えば、「死した者に永遠の美を与えて納棺することで、生きた証を刻み込んでいく」ことでしょうか。そうすることで、生きている者、死した者それぞれにメッセージを伝えているのだろうな、というのが画面からひしひしと感じられます。
劇中での軽い会話を紹介すると、(うる覚えですが)
「生き物は生き物を食べて生きている。だが生きている限りは、食うなら旨いものが良い、楽しいほうが良い。死にたいなんて考えなければ辛い事なんてないんだ。」
「はい。・・・今食べているチキンは美味しいですか?」
「ああ。困ったことにな。」
死者は思いやるべきであるのだが、そのために自らをいじめることはない。生きている者は他者を殺してでも生きていこうとするものだし、そうすべきなのだ。それは自分勝手なのではなく、生きるとはそういうことだ。
と、言いたいのかなと思います。困ったことに、それが真実なのでしょう。死生観など今までの人生でほぼ考えたことのないことですが、強いメッセージが若干コメディーを交えて発せられるので、心に入りやすかったです。見てない方には是非見て欲しい内容です。
陽気なギャングが地球を回す(伊坂幸太郎)
都会派サスペンス、という分野の本らしいです。タイトルどおりギャング達が主人公であり、銀行強盗が舞台となってます。
初めはミステリー的なものを期待していたので、大したどんでん返しはない本書はそういう意味では期待はずれでした。この本の魅力は、銀行強盗という行動を温かく支える周りの人間達と、楽しくかつ美しく犯罪を犯す主人公達、という異様な光景をコメディカルに眺められる、という点でしょうか。引き込まれる本、というわけではないですが飽きずに読んでしまう本、という感じでした。
特に愉快なのは、自分達の行動は社会に良い事をしているという想いを持っている、いわゆる確信犯が主人公達だということです。彼らの理論では銀行強盗は善で、作中で敵として出てくる現金輸送車強奪犯は信じがたい悪だととらえています。一見すると馬鹿な話ですが、伊坂ワールドに居るとそうなのかな、という気にされてしまうのが妙なところです。そのあたりが読んでいて楽しかったです。
さて、作者の意図は何だろう??
・・・特に思想があったわけでもなく楽しい小説が書きたかったのかな、というのが感想です。犯罪者っていうのは、意外に愉快でしかも正義感や友情など人間味にあふれているのかもしれないな、と思ったのかもしれないですね。
初めはミステリー的なものを期待していたので、大したどんでん返しはない本書はそういう意味では期待はずれでした。この本の魅力は、銀行強盗という行動を温かく支える周りの人間達と、楽しくかつ美しく犯罪を犯す主人公達、という異様な光景をコメディカルに眺められる、という点でしょうか。引き込まれる本、というわけではないですが飽きずに読んでしまう本、という感じでした。
特に愉快なのは、自分達の行動は社会に良い事をしているという想いを持っている、いわゆる確信犯が主人公達だということです。彼らの理論では銀行強盗は善で、作中で敵として出てくる現金輸送車強奪犯は信じがたい悪だととらえています。一見すると馬鹿な話ですが、伊坂ワールドに居るとそうなのかな、という気にされてしまうのが妙なところです。そのあたりが読んでいて楽しかったです。
さて、作者の意図は何だろう??
・・・特に思想があったわけでもなく楽しい小説が書きたかったのかな、というのが感想です。犯罪者っていうのは、意外に愉快でしかも正義感や友情など人間味にあふれているのかもしれないな、と思ったのかもしれないですね。
2009年7月6日月曜日
ジョゼと虎と魚たち(犬童一心監督)
これは映画のほうで見させていただきました。恒夫(妻夫木君)とジョゼ(池脇千鶴)と香苗(上野樹里)の三人が主な登場人物。他にも魅力的な人物がいますが、何か長くなりそうなので割愛します。
一言で言えば、「切ないラブストーリー」といったところです。香苗と付き合っていた恒夫は、足が不自由な少女ジョゼに惹かれ乗り換えますが、結局は身体障害者という苦難から逃げ出して香苗とヨリを戻すという、これだけ聞けばひどい恋愛話。
ですが、訴えたかったのは人の「弱さ」なのではないかと感じました。その説明の前に登場人物の紹介をすると、
恒夫: 遊び人の大学生で香苗とはほぼSEX目的で交際を始める。変わった魅力を持つジョゼに惹かれて一時期恋をする。
ジョゼ: 強気な女の子で、勝気な男のような性格をしている。が、毎日花と猫を見たいがために散歩をするというギャップを持っている(恒夫の惹かれたところ)。
香苗: これまた遊び人の大学生で、男を手に入れようとSEXも全く辞さない。
恒夫もジョゼも、お互いいつかは別れることになると分かっていたのではないか、と自分は勝手に思っています。そんな中での恒夫の「弱さ」は、真剣に愛したジョゼとでさえも遊びの恋にしてしまったことではないでしょうか。真剣に向き合うのが怖くてそうしてしまうのだろうか。しかも、香苗とヨリを戻すラストでは泣き崩れてしまいます。中途半端な自分とジョゼを傷つけてしまったこととに涙が出たのだと思いますが、それを理解したうえでヨリを戻してしまうという、如実に弱さが出ていたシーンに見えます。
香苗の「弱さ」は、彼氏を取られた苛立ちで、車椅子のジョゼを叩いてしまったところです。その直後に彼女も後悔していて、人の行動は目先の欲望に左右されるのだな、、と切ない気持ちになってしまいました。
ジョゼは捨てられたあとも一人で強く生きていく姿がラストシーンで映され、強い女性のように描かれますが、実は一番弱い女性だったのかなと感じます。自分を最も見てくれた恒夫に「一生ここにいてくれ」と懇願したり、一時期の思い出を求めて虎や魚を見に行ったりとします。きっと彼女には身体障害者というコンプレックスがあり、(一時期でも)愛している(と思える)人と一緒に過ごしたという想い出だけでもないと心が崩れてしまったのだと思います。しかし、外に出歩けない彼女にはもう恋愛の機会はないのですが、果たしてこれで幸せだったのか。。幸せにはなれないと確信しつつ心の隙間を埋めようとし、さらに心の隙間を広げてしまっただけではないか。。
ハッピーエンドとはいえない終わり方で、何とも重い気分になります。「人って所詮こんなものなのだよ」という作者の声が、耳をふさいでいても頭に響いてくるような、そんな映画でした。
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