2009年9月29日火曜日
白き旅立ち(渡辺 淳一)
元医者の渡辺淳一さんが書いた一冊です。この人は、医学の観点から命の重さなどの重いテーマを書き上げることで有名です。
「白き旅立ち」、という題名から「全うして生きた人の死」という印象を受けましたが、この本の内容は「死後の解剖」が中心となって語られます。解剖といっても医学実習生の教育用などに使われる解剖であり、臓器提供や病理解明とは一切関係ありません。医学の世界では自らが御世話になった分、自分も解剖の対象に、という人が多いみたいですが、正直自分は嫌です。あなたは提供する勇気がありますか?
そのような解剖を日本で初めて自ら志願した遊女・美幾の生き様を描いたのがこの本です。遊女として過ごした人生、「どんな目にあっても生きていられるだけで幸せなのだ」という悲しい想いを常に背負ってきた女性です。真に美幾のことを想ってくれる人間など存在せず、社会に出れば遊女だということで不当な扱いを受けます。そんな中で死の病に倒れてしまう美幾。
そして療養所で出会った若き医師に恋をしてしまいます。その医師が、解剖こそ日本医学の発展に不可欠だと説いているのを聞き、、、
美幾は体を提供する約束をし、自ら旅立つのです。
暗い物語ですが、渡辺さんは、「美幾の一生を書き終えて、(中略)暗いどころか、自ら腑分けで愛を訴えるとは、これほど華麗な死への旅立ちがあるだろうか。」と結びます。。
僕は彼女のことは立派だとは思います。自分の想いを貫き、医学への貢献もしましたから。でも、とても「華麗」だとは思えないのです。切ない人生と華麗な人生とは違うと思うのです。最後の死の瞬間に彼女は幸せを感じていますが、その対価としての辛い人生は、あまりに長く悲しみに包まれていました。
ご冥福をお祈りします。
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