2009年8月19日水曜日

恍惚の人 (有吉佐和子)


うちの親が有吉佐和子のことを好きらしくて、借りて読みました。この人は小説という形をした新書を書くことがたまにあるようで、「複合汚染」という題名の本では環境汚染の問題を扱った長編を綴っています。本書もそのような毛色の内容で、あとがきに「昭和40年ごろに、子供がするのが当たり前と思われていた介護の社会システム化(老人ホームやホームヘルパー)を推し進める世論を作った本」とあるように、老人介護問題を取り上げた内容となっています。

この本を読んだ人はまず人生自体が怖くなると思います。医療の発展によって長生きをするようになった老人が、題名の「恍惚の人」とあるように華やかなものではなく、他人へ多大な迷惑をかけ考えることも楽しいこともなく日々を重ねていく存在に描かれているからです。まだ救われるのは、そのかわりに老人自体は苦痛な日々は送っていないこと、その老人を必死で介護する嫁がいることです。

その老人の孫曰く、「お母さん達はこんなに長生きしないでね。」
嫁曰く、「この人の人生はいったいなんだったのだろう。」
息子曰く、「こうなる前に死にたい。」

登場人物の発言が重くのしかかります。また、文中では親を老人ホームに預ける子供は「裏切り者であり、親不孝者」として描かれていて、「家族の誰かが仕事や好きなことを犠牲にしてでも懸命に介護を続けるべき」だと言っています。読んでいる最中に老人ホームに預ければよいのに、と思っていたので、考えさせられる内容でした。ただ、自分の親がこうなるまでは本気で考えることもないのだろうな、とも思います。なぜなら、それを考えること自体が非常に怖いからです。。